Interviewインタビュー

野口 啓代Akiyo Noguchi

家族でクライミングと出会い、競技者となるまで。

私のクライミング人生は小学校5年生の頃、家族でグアム旅行に行ったときにゲームセンターで出会ったことから始まりました。父親と妹と一緒に夢中になって、地元のクライミングジムに3人で通っていたんです。12歳の頃には父親が使わなくなった牛舎の一部をプライベートウォールに改造し、家族で楽しんでいました。そうしているうちに父親がケガでやめ、妹が中学校で部活に入ってやめて。「あれ?壁も建てちゃってるし、私が続けるしかないな」と。初めプライベートウォールは傾斜がなく小さなものだったのですが、どんどん大きくなって傾斜もきつくなり、私と一緒に壁も成長していきました。中学生の頃は周りにクライミングをやっている友だちもいなくて、黙々と練習するのは正直やる気が出なかったこともありました。でも16歳のときに世界選手権に出場して表彰台に上がり、世界を知れたことが一つの転機だったと思います。それまで登るだけで楽しかったのが、競技としてクライミングをすることが楽しくなりました。当時日本でクライミングはまだまだ知名度がなかったので、世界のいろんな同世代の選手と大会で会えるのは自分のモチベーションにもなっていましたね。

登りたいというクライミングの原点。 クライミングは登れるか、登れないか、なので自分の成長が肌身で感じられるのが魅力です。昨日できなかったことが今日できるようになったり、初めから登り切った時の達成感がとても気持ち良い。私はできない課題を自分で考えて工夫して、できるようにしていく過程も好きです。近年、観客の方が増え、メディアでも多く取り上げられるなど環境が大きく変化して行くなかで、元々の「クライミングが好き」という自分の感覚を忘れてしまい、周りの目を気にし過ぎて失敗することもありました。勝ちたいとか結果とかにとらわれてしまって。そんなときは実家に帰ってプライベートウォールで登るなど、初心に返り、自分が目の前の課題を登りたいというシンプルなところまで戻ると上手くいくようになりました。

クライミングが世の中に広がる喜び。

今までは自分の登りたい課題とか、次の大会のためとか、100%今までは自分の登りたい課題とか、次の大会のためとか、100%自分のために登っていたのですが、最近は人に教えたり撮影があったり、自分以外の誰かのために登ることも増えてきました。普段のジムでの練習でさえ、私のことを知っていてくださる方も多いので、落ちたりできないな、などちょっと緊張感があったりしますね(笑)中学生や高校生の頃はクライミングの知名度がなく、周りの友だちも全然知らなかったし、クライミングをする人もいなかったので寂しい気持ちもありました。だからいま、大会の成績や私がクライミングをしていることをみんなが知ってくれているのは、とてもありがたいです。学生の時やプロになろうと決断した時、もっとたくさんの人にクライミングの楽しさを知ってほしいなと思っていたので、いまのクライミングの人気は本当にうれしいです。

一緒に登り、磨き合えるスポーツ。

クライミングは一人でやっていて登れるようになることもあるのですが、仲間と一緒に登ったり話し合ったり、仲間の登りを見て学ぶこともとても多いです。同じようなレベルの人と一緒に登って解決する課題もあれば、自分の苦手なところがライバルの得意なポイントだったりもします。私は指先でホールドを掴むことが昔から得意で、その分足を使うことがあまり得意なほうではないです。人によって登り方が全然違うので、ライバルや一緒に登る存在は大切。クライミングはお互いにとって成長でき、切磋琢磨できるスポーツだと思います。仲間とはいつも「明日どこ登るの?空いていたら一緒に行こう」みたいな感じで、連絡を取り合っています。

もっと女性にクライミングを。

昔に比べて、クライミング人口は増えてきていますが、私はもっと女性が増えてほしいと思っています。エクササイズにもなりますし、健康にもいいので。女性にとって爪が長く伸ばせないことは少しネックかもしれませんが、女性がジムに増えた方が華やかでいいですよね。クライミングは普段の生活ではしない動きをしたり、クライミングをしているからこそ見られる景色があるので、冒険心がある人が向いていると思います。

これからの私のクライミング。

子どもの頃の大会から、日本、世界へと舞台は大きく変わってきましたが、目の前の課題を登り切るということは変わらないので、同じことをこれからも続けていきたいと思います。クライミングに出会って私の人生は大きく変わりました。本当に感謝しているので、恩返しじゃないですけど、これからもクライミングの世界に貢献できればな、と思っています。

大切なもの、好きな時間。

家族との時間は大切にしています。大会の節目や世界選手権のあと、年末年始なんかは実家に帰っています。結局実家に帰ってもプライベートウォールに行ってしまって、一緒に夜ごはんを食べるくらいになってしまうんですけど…(笑)普段の練習から、ネックレスとピアスとヘアゴムはつけるようにしています。そういうアクセサリーは気分が上がるので常につけています。気合を入れたい試合には特にお気に入りのものをつけていますね。何大会かゲン担ぎのような感じで同じものをつけることもあれば、その時、その時の気持ちで異なるタイプのものもつけていますね。そういったところも意識してみてほしいです。いまはお仕事も競技も充実していて、毎日楽しいな、と思っています。休んでどこかに行ったりする機会もないので、今年から猫を飼い始めました。それが本当に癒しで、クライミングやお仕事以外の一番の楽しみです。休みの日はトリミングに連れて行ったり、ペットショップに行ったりするのが楽しいです。

応援の声を力に変えて。

ファンのみなさんからは「啓代ちゃん」と呼ばれることが多いです。「啓代ちゃん、ガンバ!」など、応援の声はリードとか高いところでも聞こえています。応援の声が大きいと「ここは難しいポイントなんだな」と思いますし、登り切る寸前で応援されると、本当に力が出ます。私の競技歴は長く変化も大きいと思うのですが、いつも家族や友人、スポンサーの方などの支えがあり、ファンのみなさんが応援してくださっているので私はここまで続けてこられたと思います。みなさんの応援に応えたいという気持ちがとても強く、それが私の原動力になっていて、本当に感謝しています。大舞台が近づくに連れて、もっと環境が変わるかもしれないし、大変になってくる時期もあるかもしれないですが、これからも応援し続けてくれたらうれしいです。

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